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名古屋高等裁判所 昭和37年(う)361号 判決 1962年11月26日

控訴人 被告人 秋田正夫

弁護人 安藤巌

検察官 福田巻雄

主文

本性控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人安藤巌提出の控訴趣意書の記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は、左記のとおりである。

道路交通法第四四条第一号に関する論旨について

論旨は、「原判決は、交差点の側端から五メートル以内の部分における駐車の事実を認定したうえ、この事実に道路交通法第四四条第一号を適用したが、これは、理由のくいちがいであり、同時に判決主文に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤である」というにある。

よつて案ずるに、原判決が、交差点の側端から五メートル以内の部分における駐車の事実を認定したうえ、この事実に道路交通法第四四条第一号第一二〇条第一項第五号を適用したことは、所論のとおりである。しかしながら、右の第四四条第一号と記載したのは、第四四条第二号と記載すべきものを誤つて記載したものであることが明白である。そして右の程度の軽微な誤は、原判決破棄の事由となるべき理由のくいちがいにあたらないと解するのが相当である。なお、右の誤は、法令適用の誤にあたるということができないわけではないけれども、判決主文に影響を及ぼすことの明らかな場合にあたらない。論旨はいずれも理由がない。

交差点の範囲に関する論旨について

論旨は、要するに、「道路交通法第二条第五号によれば、本件の交差点は、一方の車道の本来の幅員を相対する二辺とし他方の車道の本来の幅員を相対する二辺とした四辺形の部分であるから、同条によれば、被告人は、その側端から九、六メートル以上も離れた場所に駐車したことになる。故に原判決が交差点側端から五メートル以内の場所に駐車したと判示したのは、右法条の解釈を誤つたものであり、この誤は、判決主文に影響を及ぼすことが明らかである。次に被告人は、原審において、交差点の範囲につき右同趣旨の見解を述べているにもかかわらず、原判決及びその引用する各証拠には、交差点の範囲に関する何等の説明も存在しない。これは、判決に理由を附さなかつたものである」というにある。

所論に鑑み、原判決引用の各証拠を検討すると、次の事実関係を肯認することができる。原判示の交差点およびその附近の状況は、別紙図面に表示したとおりであつて(以下の(イ)(ロ)等の符号は、同図面表示の(イ)(ロ)等の地点をさす)、名古屋市街地の中心地帯において、東西に通ずる白川通と南北に通ずる南呉服通とがほぼ片かなの「ナ」の字型に交わつており、その各通は、いずれも車道と歩道の区別のある道路であつて、中央が車道であり、その両側が歩道である。右の四つ辻に臨んでいる四つ角の各宅地の街角が切り取られて道路となつている関係上、歩道と車道との境界線は、右街角に相当する部分において円周をなして彎曲している。すなわち、白川通の車道とその南側歩道との境界線上を西方より東方に向つて進行すれば、当初は一直線に進むが、(ロ)点より円周をなし漸次方向を転換して南方に向い、(イ)点より南呉服通の車道とその西側歩道との境界線上を一直線に南方に向つて進行することとなる。その境界線上において、(イ)点より南方五メートルの地点に、所定の「駐車可」(その地点より南方では駐車してもよいという趣旨)の道路標識が立ててある。そして被告人は、原判示の日時、右(イ)点より約〇、五メートル南方の右境界線上の地点附近に乗用自動車の右側後端を置き南向きにして右境界線に副う車道上に、右自動車を約三〇分間駐車したのである。なお、(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)各点は、それぞれ右の(イ)(ロ)各点と同趣旨の地点であつて、車道と歩道との境界線が一直線から彎曲する線に変化する地点である(右認定に反する被告人の各供述部分は採用しない)。

本件の事実関係は、右認定のとおりである。そして右のように車道と車道が交わる十字路において、四つ角の宅地または歩道の角を切り取つて歩道または車道としたことにより車道の幅員を拡大してある場合には、その拡大してある車道部分は道路交通法にいわゆる交差点に包含され、したがつて本件においては、右の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(イ)各点を順次直線で結んだ線内の車道部分全部が、双方の車道の交わる部分であつて、右の交差点にあたる、と解すべきである。故に右の(イ)点は、交差点の側端にあたる。被告人は、交差点の側端から五メートル以内の場所に自動車を駐車したことが明かである。

原判決およびその引用する各証拠を総合すると、原判決が本件交差点の範囲、(イ)点がその側端であること等につき上記と同一の見解であることは、疑がない。したがつて原判決に所論の法令解釈の誤はない。

原判決は、前記のような詳細な説示をしていないけれども、本件交差点の側端から五メートル以内の場所に駐車した旨の必要にして十分な判示をしており、しかも、その引用する各証拠によれば、叙上の見解に立脚することが明白であるから、原判決に所論のような理由を附さない違法はない。

右のとおりであつて、論旨は、交差点の範囲等に関する独自の見解にもとづき原判決をいたずらに非難攻撃するものであつて、いずれも採用することができない。

これを要するに、本件控訴は理由がないから、刑訴法第三九六条により、これを棄却すべく、当審における訴訟費用は、同法第一八一条第一項本文に従い、被告人をして負担させることにして、主文のとおり判決をする。

(別紙図面)<省略>

(裁判長裁判官 影山正雄 裁判官 吉田彰 裁判官 村上悦雄)

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